九州ええもん見っけ隊
(更新)
猛暑の余韻を残しながらも、秋の気配が忍び寄る9月中旬。
リビングの窓を揺らす風にどこか澄んだ冷たさが混じる夕暮れ時。少しトーンを落としたJAZZの旋律が静かに流れる部屋で、私はある「眼福」ならぬ「口福」の準備を進めていました。
きっかけは、佐賀の「まいぷれ」仲間から届いた贈り物。
小包を開けると、そこに鎮座していたのは佐賀が誇る名蔵・天吹酒造の「天吹 純米大吟醸」。
季節の変わり目に届いた風雅な一瓶に、「わざわざ純米大吟醸を贈ってくださるとは、なんとも粋な……」と胸が熱くなります。

酒標を眺めると、天吹の代名詞とも言える花酵母——それも「オシロイバナ」の酵母で醸された逸品。夕暮れにそっと花開くオシロイバナのように、密やかで芳しい香りを秘めているのかと想像するだけで、喉が鳴ります。
「この華やかで凛とした一本に、どんなアテを合わせるべきか」
日本酒といえば和の珍味や刺身が定番ですが、この気品ある花酵母のポテンシャルなら、固定観念を飛び越えたペアリングを受け止めてくれるはず。そう思い立った瞬間、頭に閃いたのがイタリアンの名作「アラビアータ」でした。
そして、その主役に抜擢したのは、我が宮崎が誇る逸品「生椎茸」です。

宮崎の豊かな太陽と清らかな水、そして深い山々が育む生の宮崎椎茸。
手に取ると驚くのは、その圧倒的な肉厚さと、笠の裏に美しく整列したヒダのみずみずしさです。
包丁を入れると、ザクッという心地よい手応えとともに、森の芳しい香りが立ち上ります。椎茸はただの具材ではありません。旨味の成分であるグアニル酸を極限まで蓄えた、まさに天然の「出汁の塊」なのです。
フライパンにニンニクと唐辛子、オリーブオイルを熱し、香りが立ったところで肉厚にカットした宮崎椎茸を投入します。
じっくりとオイルを吸わせながら火を通すと、椎茸のカサがふっくらと汗をかき、きつね色の焼き色がついていきます。そこにトマトソースを加え、少量の醤油と和の隠し味をひと滴。
唐辛子のピリッとした刺激(アラビアータ=「おこりんぼう」)の奥から、椎茸の濃厚なエスプレッソのような旨味が滲みだし、ソース全体を優しく、しかし重厚に包み込んでいきます。実に楽しき調理の時間です。

料理が仕上がる頃、いよいよ「天吹 純米大吟醸」をグラスに注ぎます。
ここで選んだのは、あえて日本酒用の猪口ではなく、白ワイン用のグラス。
ボウルにゆったりとした膨らみがあり、スワリングによって空気に触れさせることで、オシロイバナ酵母ならではの可憐で繊細なアロマが凝縮され、立ち上るのです。
グラスに鼻を近づけると、洋梨や白い花を思わせるみずみずしく華やかな香りがフワリ。
口に含むと、純米大吟醸ならではの極上の滑らかさと透明感が広がり、後味はどこまでも清らかに切れていきます。

テーブルにつき、静かなJAZZに耳を傾けながら、熱々の和風アラビアータを一口。
ピリッと舌を刺激する唐辛子の辛みとトマトの酸味、そして噛みしめた瞬間に宮崎椎茸から溢れ出すジュワッとした濃密な旨味! 生椎茸ならではのエリンギにも似た弾力ある歯ごたえが、食卓を一気に官能的な空間へと塗り替えます。
そこへ、冷やした「天吹」をすっと流し込む——。
「……!」
思わず目をつむり、息をのむ瞬間。
アラビアータのパッション溢れる辛みとトマトの酸を、天吹の持つ繊細な米の甘みと花酵母のフルーティーな香りが優しく包み込み、見事なまでに中和していきます。
そして、椎茸の深い和の旨味と、天吹の持つ純米のコクが舌の上で重なり合い、まるでフルオーケストラのハーモニーのように増幅していくのです。
唐辛子の熱さを、天吹の冷涼で清々しいキレが心地よく洗い流し、最後に口中に残るのは、椎茸とオシロイバナの優雅な余韻のみ。
まさに、佐賀の伝統蔵が咲かせた「美酒」と、宮崎の風土が生んだ「大地の恵み」がリビングで出逢った、味の金字塔。
猛暑から残暑へと移ろう季節の狭間で、至福の時が静かに流れていきます。

今回の編集を手掛け、九州各地の魅力が交差する面白さを改めて実感しました。
佐賀の伝統蔵・天吹酒造が挑む「オシロイバナの花酵母」という革新的な美酒と、宮崎が誇る肉厚で濃厚な生椎茸。一見するとジャンルも地域も異なる二つの素材ですが、和風アラビアータという意外性のある一皿を介することで、見事な味覚のシンフォニーが生み出されました。
単なる特産品の紹介にとどまらず、「季節の移ろい」や「ワイングラスで味わう一工夫」といった暮らしの情景とともに提案することで、皆様に「九州のええもん」を味わう豊かな体験価値をお届けできていれば幸いです。
地域同士がつながり、新しい食の楽しみ方が広がる瞬間を表現できる喜びは格別です。これからも九州の素晴らしい食材や酒の魅力を、心を込めて発信していきたいと思います。
今回の酒 「天吹 純米大吟醸」
天吹酒造合資会社
所在地: 佐賀県三養基郡みやき町東尾2894
電話: 0942-89-2001
創業: 創業元禄年間(1688年~1704年)
オンラインショップ:https://amabukihanbai.com/
今回の食材 「椎茸が主役の和風アラビアータ」
宮崎の深い森と自然の恵みで育つ原木椎茸は、驚くほどの肉厚感と濃厚な旨味が自慢です。オリーブオイルで香ばしく焼き上げた椎茸に歯を立てると、まるで肉のようなジューシーな食感と香りが口いっぱいに広がります。トマトの酸味や唐辛子の刺激を従えた椎茸の深い旨味は、「天吹」を流し込むことでより際立ち、華やかなアロマと溶け合います。隠し味の白味噌と醤油が引き立てる、まさに椎茸を味わい尽くす至高の和風酒肴です。
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